Respect beyond Words
Okinawa and Bali
沖縄とバリ、いのちをつなぐ大地の恵みに感謝して
自然崇拝の島であり、独特の食文化や風習、
大らかな人間性など、共通点が多い沖縄とバリ。
それぞれの魅力を掘り下げながら、
未来に向けた食の取り組みについて語らいました。
中曽根直子(浮島ガーデン)
プルワ・ワヤン(バリヌーン・バリムーン)
平良由乃(プラザハウス)
沖縄とバリに共通する
優しいヌチグスイ
平良由乃(以下平良) 私とバリの出合いは40年以上前。東京でファッションの仕事に就き、サンプルを作るために染織りの技術に優れたバリを訪れました。街ですれ違う女性が祖母にそっくりで驚きました。平屋の庭にはヒンプン(魔除け・目隠し)があり、豚肉を余すところなく食す、聞こえてくるガムラン音楽は、沖縄の旋律とどこか似ていて……。あっという間にバリに恋をしました。プラザハウスの中庭のバナーは若い作り手が染めたバリのバティック、店舗にある家具の多くも直輸入しているオーダーメイド。プラザハウスのゆったりとした空気感には、バリの職人たちの存在が大きいんです。
中曽根直子(以下中曽根) バリを訪れた時に、高台からライステラスを見学したのですが、広大な敷地に赤米と黒米の棚田が美しく、なんて豊かな島なんだろうと感動しました。
プルワ・ワヤン(以下プルワ) バリはもともと米文化。リゾートを求めて世界中から人が集まりますので、あらゆる種類の米を作っています。赤米・黒米からはワインも作ります。米を3、4日発酵させると甘いお酒になり、1カ月寝かせるとアルコール度数の高い辛口のワインになります。
平良 バリの面積は沖縄の約5倍で、一番高い霊峰と崇められているアグン山や富士山級の高い火山が二つあって、赤道直下の熱帯の島なのに、山の上ではアスパラや寒い地域の食物、ワインも作っています。沖縄にある食材は、全部バリにあるけれど、バリにあるものは沖縄にないってプルワがいうのよ。
中曽根 バリ料理の特徴を教えてください。
プルワ バリでは生ものを好まず、素材には火を通すことが多いです。バリ料理に欠かせないのはブンブ(さまざまなフレッシュハーブやスパイスをペースト状にして煮詰めた調味料)。どんな料理にも添えますね。バナナの葉は蒸し上げ用に、アクを抜いた花はサラダに、幹はスープにと余すところなく用います。ココナッツはほぼすべての料理に使うかもしれません。バリのお祭りの時期になると、県内のバリコミュニティの人たちが故郷を思い出し、お店に足を運んでくれるのは、とてもうれしいです。
平良 世界屈指のリゾートで、バリ料理のおいしさは広く知られているはずなのに、バリ料理を食べられるところは案外多くないんです。乾燥スパイスを使うインドのカレーと違い、ブンブには数多くのフレッシュなハーブが必要になることも理由の一つかもしれません。プルワは独自のルートで食材を輸入できるので、ここでは安定してブンブを作ることができます。
中曽根 各家庭にはジャムウ(ウコンやタマリンド、薬用の植物クンチュールが入ったドリンク)のレシピがあると聞きます。
プルワ からだを壊した時には家庭でジャムウを作ります。薬草療法が暮らしに根付き、重んじるバリではハーブを育てている家庭も多いです。
平良 祖母の庭にもバンシルー(グアバ)とフーチバー(ヨモギ)が植わっていて、バンシルーでよくお茶を作っていました。沖縄ではフーチバーはフーチ(病気や薬)バー(葉)を意味し、バリではグアバは血糖値を下げる効果があるとして薬のような存在のようね。
祈りの文化を絶やさぬように
雑穀の未来とともに考える
中曽根 バリでは煙を立ち上らせながら拝んでいる姿を見かけました。あれはどういう行為ですか?
プルワ 祈りや拝みにはいろんな種類がありますが、基本的には自然と人間界の平和を保つ祈りです。バリでは花と水、炎が伝達役。花は宇宙全体の象徴、水はピュアになるための道具、炎には悪いものを燃やし尽くすという意味があり、この三つがそろって祈りが成り立ちます。
平良 バリは日本と同じく「やおよろずの神」だから、森羅万象すべてのものに神が宿ると信じ、大きな木や岩を神として崇めている。これは沖縄も同じですね。神様にはどんなものを捧げるのですか?
プルワ バリでは食材だけを供えることはなく、穀物や米を使った料理、フルーツ、花を組み合わせて神様に捧げます。バリでは神に捧げる料理を調理する料理人は尊い存在です。寺では女性が礼拝をして、男性が料理をします。沖縄は神様に何を捧げますか?
中曽根 沖縄ではアワが聖なる作物とされ、神様へのお供えに欠かせない雑穀です。収穫したアワで御神酒(発酵ドリンク)を作ります。とても小さな粒なので、脱穀してから食べられるようにするまで、大変時間がかかります。戦前はアワをはじめ沖縄各地で雑穀が作られていましたが、戦後の食糧難で、収穫したらすぐにお腹を満たせる芋を栽培するようになり、手間暇がかかる雑穀の畑は、芋畑に変わっていきました。
離島を含む一部の小さな農家と、神様に捧げるという名目で、神事を司る人たちの手によって、かろうじて存続している現状です。八重山では、アワをおにぎりのようにして、サギジョーキ(冷蔵庫がなかった時代、食べ物を入れて保管するための竹かご)の中に入れて、いつでも食べられる状態にしていました。
食文化が消えゆくと同時に、神に祈るという沖縄の精神文化が途絶えていく危機感があります。20世紀に94%の野菜のタネがなくなったといわれています。これまで頑張って残してくれた先人たちがいるから、私たちが今食べられているということを、次の世代へつないでいかないといけないと思います。
平良 直子さんの雑穀はロージャースフードマーケットでも販売させてもらっていますが、ヴィーガンのメニューにも応用できるかも。
プルワ どのような使い方ができますか?
中曽根 肉や卵、乳製品の味わいを雑穀で作り出すことができるので、日々レシピを考案しています。例えば、アワはチーズ味に、黄色いモチキビは卵風味を、タカキビは畑のひき肉といわれるぐらい、おいしいひき肉もどきを、ヒエは魚の味と食感を生み出せるんです。
平良 バリとの融合で、沖縄の大切な文化をつないでいけたらいいですね。これからも学びのあるイベントをやっていきましょう!
Naoko Nakasone 中曽根 直子
Wayan Purwa プルワ・ワヤン